監修:現役医師(ハリメド医師監修チーム)|著者:ハリメド編集部
はじめに:手陽明大腸経とは
手陽明大腸経(Large Intestine Meridian、略称:LI)は、正経十二経脈のうち手の三陽経の一つであり、示指末節橈側の商陽(LI1)に始まり、上肢外側を上行し、頸部・顔面を経て鼻孔旁の迎香(LI20)に終わる全20穴からなる経脈である。
五行では金に属し、表裏関係にある手太陰肺経と陰陽の対をなす。大腸の機能(伝化・排泄)を主り、肺との相互関係から呼吸器・皮膚・免疫系とも密接に関わる。臨床では頭顔面疾患・発熱・上肢運動障害に広く活用される。
経脈の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 経脈名 | 手陽明大腸経(Hand Yangming Large Intestine Meridian) |
| 略称 | LI(Large Intestine) |
| 五行属性 | 金(陽金) |
| 表裏経 | 手太陰肺経(LU) |
| 気血の流注 | 肺経 → 大腸経 → 胃経 |
| 経穴数 | 20穴(LI1〜LI20) |
| 起穴 | 商陽(LI1) |
| 終穴 | 迎香(LI20) |
| 担当臓腑 | 大腸(腑) |
循行ルート(WHO/ISO 2008標準)
WHO/WPRO標準経穴部位(2008年)および日本語公式版(医歯薬出版)に基づく循行を以下に示す。
体表循行
- 起点:示指末節橈側(商陽 LI1)
- 手背:示指橈側縁を上行し、第1・2中手骨間(合谷 LI4)を通過
- 前腕:手首の橈側(陽渓 LI5)から前腕外側(橈骨側)を上行
- 肘:肘関節外側の横紋端(曲池 LI11)を通過
- 上腕:上腕外側を上行し、肩峰前下方(肩髃 LI15)へ
- 肩・頸部:肩より後方に向かい大椎(GV14)で他の陽経と交会後、前頸部(扶突 LI18)を下降し欠盆(鎖骨窩)に入る
- 内行路:欠盆から大腸に属絡し、肺と絡す
- 顔面・終点:欠盆から上行し、頬・下歯を経て鼻孔旁の迎香(LI20)に終わる。ここで足陽明胃経に引き継がれる
全経穴一覧(LI1〜LI20)
| 番号 | 穴名 | 読み | 英名 | 部位 | 主な主治 |
|---|---|---|---|---|---|
| LI1 | 商陽 | ショウヨウ | Shangyang | 示指末節橈側、爪角旁0.1寸 | 咽喉腫痛・歯痛・熱病・昏迷 |
| LI2 | 二間 | ジカン | Erjian | 示指MCP関節橈側前方陥凹 | 歯痛・咽喉痛・顔面神経麻痺 |
| LI3 | 三間 | サンカン | Sanjian | 示指MCP関節後方橈側陥凹 | 歯痛・下痢・眼疾患 |
| LI4 | 合谷 | ゴウコク | Hegu | 第1・2中手骨間、第2中手骨橈側中点 | 頭痛・歯痛・顔面疾患・発汗調節・分娩誘発 |
| LI5 | 陽渓 | ヨウケイ | Yangxi | 手首橈側、解剖学的嗅ぎたばこ入れの陥凹 | 手関節痛・頭痛・耳鳴 |
| LI6 | 偏歴 | ヘンレキ | Pianli | 陽渓〜曲池線上、陽渓の上方3寸 | 耳鳴・鼻出血・浮腫 |
| LI7 | 温溜 | オンリュウ | Wenliu | 陽渓〜曲池線上、陽渓の上方5寸 | 腸鳴・腹痛・顔面疾患 |
| LI8 | 下廉 | カレン | Xialian | 陽渓〜曲池線上、曲池の下方4寸 | 腹痛・下痢・頭痛 |
| LI9 | 上廉 | ジョウレン | Shanglian | 陽渓〜曲池線上、曲池の下方3寸 | 腹痛・半身不随・上肢麻痺 |
| LI10 | 手三里 | テサンリ | Shousanli | 陽渓〜曲池線上、曲池の下方2寸 | 肩こり・腹痛・頬の腫脹 |
| LI11 | 曲池 | キョクチ | Quchi | 肘横紋外端と橈骨外側上顆の中点 | 発熱・高血圧・皮膚疾患・上肢麻痺 |
| LI12 | 肘髎 | チュウリョウ | Zhouliao | 上腕骨外側上顆の上方1寸 | 肘関節痛・上肢麻痺 |
| LI13 | 手五里 | テゴリ | Shouwuli | 曲池〜肩髃線上、曲池の上方3寸 | 上肢麻痺・瘰癧 |
| LI14 | 臂臑 | ヒジュ | Binao | 曲池〜肩髃線上、曲池の上方7寸 | 頸部瘰癧・眼疾患・上肢麻痺 |
| LI15 | 肩髃 | ケングウ | Jianyu | 肩峰前下端と上腕骨大結節の陥凹 | 五十肩・上肢麻痺・蕁麻疹 |
| LI16 | 巨骨 | ココツ | Jugu | 肩峰と肩甲棘の間の陥凹 | 肩背部痛・上肢挙上困難 |
| LI17 | 天鼎 | テンテイ | Tianding | 前頸部、胸鎖乳突筋後縁、甲状軟骨上縁と同高 | 咽喉腫痛・失語・頸部リンパ節炎 |
| LI18 | 扶突 | フトツ | Futu | 前頸部、甲状軟骨上縁の高さ、胸鎖乳突筋前後縁間 | 咽喉腫痛・甲状腺疾患・咳嗽 |
| LI19 | 口禾髎 | コウカリョウ | Kouheliao | 鼻唇溝中、鼻翼外縁中点の高さ、GV26外方0.5寸 | 鼻疾患・顔面神経麻痺・口周囲痙攣 |
| LI20 | 迎香 | ゲイコウ | Yingxiang | 鼻唇溝中、鼻翼外縁中点と同高 | 鼻閉・嗅覚障害・顔面神経麻痺 |
要穴(五腧穴・原穴・絡穴・郄穴・募穴・背部兪穴)
要穴は国家試験頻出であり、臨床選穴の根拠ともなる重要な経穴群である。
| 要穴の種類 | 経穴名 | 経穴番号 | 五行 | 臨床的意義 |
|---|---|---|---|---|
| 井穴 | 商陽 | LI1 | 金 | 急症・開竅・清熱瀉火 |
| 滎穴 | 二間 | LI2 | 水 | 発熱性疾患・実証の清熱 |
| 兪穴(原穴) | 三間(合谷) | LI3(LI4) | 木(原) | 三間:急性疾患;合谷:顔面・五官の総穴 |
| 原穴 | 合谷 | LI4 | — | 顔面・頭部疾患の第一選穴。「面口合谷収」 |
| 経穴 | 陽渓 | LI5 | 火 | 手関節疾患・頭痛・耳疾患 |
| 合穴 | 曲池 | LI11 | 土 | 発熱・高血圧・皮膚疾患・上肢麻痺 |
| 絡穴 | 偏歴 | LI6 | — | 肺経との連絡;表裏同治の選穴に用いる |
| 郄穴 | 温溜 | LI7 | — | 急性の腸・顔面疾患に用いる |
| 募穴 | 天枢 | ST25 | — | 大腸疾患(便秘・下痢)の診断・治療点 |
| 背部兪穴 | 大腸兪 | BL25 | — | 腸疾患・腰痛の背部反応点 |
五腧穴の五行配当(手陽明大腸経は陽経)
陽経の五腧穴の五行は、井(金)→ 滎(水)→ 兪(木)→ 経(火)→ 合(土)の順に配当される。これは陰経(井・木→滎・火→兪・土→経・金→合・水)と逆の配当であり、国家試験で混同しやすいため注意が必要である。
主要経穴の臨床応用
合谷(LI4):「面口合谷収」
「面口合谷収」という古典の表現が示すように、合谷は顔面・口腔・五官疾患に対する第一選穴として古来より重用されている。臨床的には頭痛・歯痛・鼻炎・顔面神経麻痺・三叉神経痛などに広く用いられる。また分娩促進作用が知られており、妊婦への強刺激は禁忌とされる。
曲池(LI11):発熱・高血圧・皮膚疾患の要穴
曲池は大腸経の合穴(土)であり、清熱・降火の作用が強い。急性感染症の発熱、高血圧(降圧効果)、皮膚疾患(湿疹・蕁麻疹・乾癬)に対して高いエビデンスレベルで使用される。
臨床エビデンス
合谷(LI4)を含む鍼治療と高血圧
合谷・曲池を主穴とした鍼治療と降圧薬の併用効果を検証した複数のRCTおよびメタアナリシスが報告されている。23件のRCT(計1,788名)を対象としたメタアナリシス(Springer, 2022)では、鍼治療+降圧薬群が降圧薬単独群と比較して収縮期・拡張期血圧の有意な低下を示した(SMD = −0.68、95%CI: −0.87〜−0.50)。ただし、原研究のバイアスリスクが高く、現時点でのエビデンスグレードは中程度(GRADE B)に留まる(Tan et al., Annals of Translational Medicine, 2019)。
曲池(LI11)と発熱・皮膚疾患
曲池への鍼刺激が体温調節に関与するという実験的根拠が複数報告されている。また、アトピー性皮膚炎患者に対する曲池・血海配穴のRCTでは、掻痒感スコア(VAS)の有意な改善が示された(日本鍼灸エビデンスレポートEJAM 2020)。
ツボマップで大腸経を3Dで確認する
大腸経の各経穴の位置を3Dモデルで視覚的に確認できます。取穴の際の立体的なイメージ形成に活用してください。
国家試験対策ポイント
- 大腸経の起穴・終穴:商陽(LI1)→ 迎香(LI20)。「大腸は示指から始まり鼻に終わる」と覚える
- 原穴は合谷(LI4):大腸経の原穴≠兪穴(三間LI3)。原穴と兪穴は別穴であることに注意
- 絡穴は偏歴(LI6):「偏歴」の位置は「陽渓から上方3寸」。温溜(郄穴:5寸)と混同しないこと
- 郄穴は温溜(LI7):「温溜」の位置は「陽渓から上方5寸」
- 合穴は曲池(LI11):五行は「土」。陽経の合穴はすべて「土」
- 五腧穴の五行(陽経):井・金、滎・水、兪・木、経・火、合・土
- 募穴は天枢(ST25)、背部兪穴は大腸兪(BL25)
- 「面口合谷収」:合谷は顔面・口腔の治療点として国試頻出。妊婦禁忌も押さえる
まとめ
手陽明大腸経は、示指から鼻孔旁まで走行する全20穴の陽経であり、頭顔面疾患・発熱・上肢疾患・消化器疾患に幅広く活用される。特に合谷(LI4)・曲池(LI11)は国際的にも高い使用頻度を誇り、複数のRCTおよびメタアナリシスにより一定の臨床エビデンスが蓄積されている。要穴(五腧穴・原穴・絡穴・郄穴・募穴・背部兪穴)の正確な把握は、国家試験対策のみならず臨床的選穴の基盤として不可欠である。
各経穴の詳細な取穴法・刺鍼深度・臨床エビデンスについては、個別経穴の解説記事を参照されたい。
