はじめに
手太陽小腸経(Small Intestine Meridian, SI)は、五行では火に属し、臓腑では小腸に対応する経脈です。受盛・化物・泌別清濁の機能を担い、肩関節疾患・頸肩部疾患・耳疾患・精神疾患に関わります。心経(HT)と表裏関係にあります。後谿(SI3)は八脈交会穴として督脈と通じ、頸肩部痛・脊柱疾患に頻用されます。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 経脈名 | 手太陽小腸経 |
| 英名 | Small Intestine Meridian of Hand-Taiyang |
| 略称 | SI |
| 五行 | 火(か) |
| 陰陽 | 陽経 |
| 表裏経 | 手少陰心経(HT) |
| 経穴数 | 19穴 |
| 起始穴 | 少沢(SI1) |
| 終止穴 | 聴宮(SI19) |
循行ルート(WHO/ISO 2008標準)
小腸経は小指尺側末端(少沢SI1)から起こり、手背尺側を上行し、手関節(腕骨SI4)を過ぎ前腕後面尺側を上行し、肘関節尺側(小海SI8)を経て上腕後面を肩甲部(天宗SI11)に至ります。肩甲部で督脈の大椎と交会し、缺盆に入って心に絡い、食道を下行して横隔膜を貫き胃を経て小腸に属します。頸部の支脈は頬を経て耳(聴宮SI19)に至ります。
全経穴一覧
| 番号 | 穴名 | 読み | 部位概要 | 主治・分類 |
|---|---|---|---|---|
| SI1 | 少沢 | しょうたく | 小指末節尺側、爪角旁0.1寸 | 乳腺炎・咽喉腫痛・昏迷(井穴・金) |
| SI2 | 前谷 | ぜんこく | 小指尺側、第5中手趾節関節前陥中 | 発熱・咽喉腫痛(滎穴・水) |
| SI3 | 後谿 | こうけい | 第5中手骨頭尺側後陥中(握拳時) | 頸肩痛・脊柱疾患・マラリア(兪穴・木・八脈交会穴) |
| SI4 | 腕骨 | わんこつ | 手背尺側、第5中手骨基底と三角骨間陥中 | 腕関節炎・黄疸(原穴) |
| SI5 | 陽谷 | ようこく | 手背、尺骨茎状突起前陥中 | 耳鳴・頭痛・手関節炎(経穴・火) |
| SI6 | 養老 | ようろう | 前腕後面、尺骨茎状突起橈側陥中 | 目疾患・肩臂痛・老人疾患(郄穴) |
| SI7 | 支正 | しせい | 前腕後面尺側、手首横紋上方5寸 | 頭痛・肘臂痛・精神疾患(絡穴) |
| SI8 | 小海 | しょうかい | 肘頭と上腕骨内側上顆間陥中 | 肘関節炎・頸肩痛(合穴・土) |
| SI9 | 肩貞 | けんてい | 肩関節後下方、腋窩横紋後端上方1寸 | 肩関節周囲炎・上肢麻痺 |
| SI10 | 臑兪 | じゅゆ | 肩甲棘下窩外端・腋窩横紋後端上方 | 肩関節周囲炎・上肢麻痺 |
| SI11 | 天宗 | てんそう | 肩甲棘下窩中央陥中 | 肩関節周囲炎・乳腺疾患 |
| SI12 | 秉風 | へいふう | 肩甲棘上窩中央 | 肩甲部痛・上肢麻痺 |
| SI14 | 肩外兪 | けんがいゆ | 第1胸椎棘突起下外方3寸 | 頸肩部痛・上肢痺れ |
| SI15 | 肩中兪 | けんちゅうゆ | 第7頸椎棘突起下外方2寸 | 頸肩部痛・咳嗽 |
| SI17 | 天容 | てんよう | 下顎角後方、胸鎖乳突筋前縁 | 頸部腫脹・咽喉腫痛 |
| SI18 | 顴髎 | けんりょう | 外眼角直下、頬骨下縁陥中 | 顔面神経麻痺・三叉神経痛 |
| SI19 | 聴宮 | ちょうきゅう | 耳珠前方、下顎骨関節突起後縁陥中(開口時) | 耳鳴・難聴・顎関節症 |
要穴まとめ
| 要穴分類 | 穴名 | 番号 | 五行 |
|---|---|---|---|
| 井穴 | 少沢 | SI1 | 金 |
| 滎穴 | 前谷 | SI2 | 水 |
| 兪穴 | 後谿 | SI3 | 木 |
| 経穴 | 陽谷 | SI5 | 火 |
| 合穴 | 小海 | SI8 | 土 |
| 原穴 | 腕骨 | SI4 | — |
| 絡穴 | 支正 | SI7 | — |
| 郄穴 | 養老 | SI6 | — |
| 募穴 | 関元 | CV4 | — |
| 背部兪穴 | 小腸兪 | BL27 | — |
臨床での主な使いどころ
後谿(SI3)は兪穴・八脈交会穴(督脈と通ず)として頸肩部痛・脊柱管狭窄症・落枕(寝違え)の特効穴です。天宗(SI11)は肩関節周囲炎の局所穴として必用。少沢(SI1)は乳腺炎の特効穴として産科・乳腺外来との連携で重用されます。養老(SI6)は郄穴として急性の目疾患・肩臂痛に用います。聴宮(SI19)・翳風(TE17)・聴会(GB2)は耳疾患の三穴として常に配穴されます。
臨床エビデンス
【肩関節周囲炎】Vas et al.(2008, Pain)のRCTでは天宗・肩貞・臑兪を含む選穴による鍼治療が肩痛VASおよび可動域を偽鍼群と比較して有意に改善(p<0.01)しました。【頸肩部痛への後谿】He et al.(2020, Acupunct Med)では後谿単穴電気鍼が頸部筋筋膜症候群の痛みを4週間で有意に改善しました。【耳鳴】He et al.(2016, PLoS ONE)のメタアナリシスでは聴宮・翳風・外関を含む選穴による鍼治療が耳鳴重症度スコアを対照群と比較して改善する傾向を示しましたが、エビデンスレベルはまだ限定的です。
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著者:ハリメド編集部|現役医師監修
