陰陽と虚実は、東洋医学の基本概念ですが、どちらも「体のバランス」に関係するため、西洋医学に慣れた医師にとっては混乱しやすい部分です。
その関係を理解するには、**アシデミア(acidemia)とアシドーシス(acidosis)**の関係に置き換えると分かりやすくなります。
「アシデミア」と「アシドーシス」
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アシデミア(acidemia):血液pHが酸性に傾いている状態(結果・所見)
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アシドーシス(acidosis):酸性に傾ける原因となるプロセス(機序・原因)
つまり、
アシドーシスがあって、結果としてアシデミアが起きる。
これを東洋医学に置き換えると
| 西洋医学 | 東洋医学 | 意味 |
|---|---|---|
| アシデミア(結果)・アルカレミア | 陰陽 | 身体全体の状態や立ち位置(結果)を示す |
| アシドーシス(過程)・アルカローシス | 虚実 | バランスを崩していく力の方向や機序(原因)を示す |
つまり、
陰陽は「今どんな状態に傾いているか」という結果的なバランスであり、
虚実は「なぜそのように傾いたのか」という動的な原因や勢いを示しています。
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陰陽 → 結果(どちらに傾いているか)
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虚実 → 原因(どういう力が働いているか)
陰陽 × 虚実の4象(立ち位置とベクトルでみる)
| 区分 | 状態の立ち位置 | エネルギーの向き(ベクトル) | 典型症状・身体像 | 現代医学での類推例 | 治療方針 |
|---|---|---|---|---|---|
| 陽実証 | 陽が過剰 | 外へ激しく発散(上昇・外向) | 顔が赤い、熱感、怒りっぽい、脈が強く速い、頭痛・のぼせ・炎症 | 交感神経過緊張、高代謝状態(例:発熱、炎症、甲状腺亢進) | 清熱・鎮静・瀉法(曲池・太衝・合谷) |
| 陽虚証 | 陽が不足 | 発散力が弱く沈む(下降・内向) | 冷え、むくみ、倦怠感、疲れやすい、食欲不振、顔色白い | 代謝低下・副交感神経優位(例:低体温、慢性疲労、低血圧) | 温陽・補気(気海・関元・足三里) |
| 陰実証 | 陰が過剰 | 滞留・停滞(沈静しすぎて動かない) | 冷えて重だるい、湿気で悪化、腹満・浮腫・軟便 | うっ血・うっ滞(例:慢性胃腸炎、浮腫、慢性副鼻腔炎) | 利湿・巡りを促す(脾経・腎経、陰陵泉・中脘) |
| 陰虚証 | 陰が不足 | 熱が内側に残る(内熱・上昇) | ほてり、乾燥、不眠、盗汗、頬が赤い、舌が赤く乾く | 内分泌低下+相対的交感緊張(例:更年期、甲状腺機能低下+不眠) | 滋陰・養血・鎮静(腎兪・三陰交・太渓) |
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陽実証:熱が強く、のぼせや炎症がある(例:急性上気道炎、発熱)
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陽虚証:冷えや代謝低下がみられる(例:低体温、甲状腺機能低下)
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陰虚証:潤いが不足し、ほてりや乾燥がみられる(例:更年期、慢性疲労)
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陰実証:冷えや湿が停滞して重だるい(例:浮腫、慢性胃腸炎)
このように、「体のどちらに傾いているか(陰陽)」と「その力の強弱(虚実)」を組み合わせて診断し、治療の方向性(補うか、瀉すか)を決めていきます。
