都市モデルで理解する「陰陽」と「虚実」
― 東洋医学の体の流れを“街の交通”で考える ―
はじめに
東洋医学の世界では、体の状態を「陰陽」と「虚実」で分類します。
しかし、これは多くの医療従事者や学習者にとって、最初の壁になりがちです。
「なんとなく分かるけど、抽象的でイメージしづらい」という声も少なくありません。
そんなときに役立つのが、**都市と交通のに例えてみる**というとらえ方です。
体の中を「都市のインフラと交通の流れ」として捉えると、
陰陽や虚実の意味が立体的に見えてきます。
1. 陰陽を「都市の雰囲気」に例える
陰陽は、その都市がどんな空気感・気候・テンションで動いているかを表します。
| 区分 | 都市の雰囲気 | 身体の傾向 |
|---|---|---|
| 陽 | 昼の都心、エネルギーに満ち、人も多くてざわざわしている。 | 活動的、発散的、熱っぽい。代謝や交感神経が優位。 |
| 陰 | 夜の郊外、静かで落ち着き、人通りも少ない。 | 静的、沈静的、冷えやすい。副交感神経が優位。 |
陽が強すぎると、街は過密になり、みんながせかせかしてイライラしやすくなります。
逆に、陰が過剰だと人が減りすぎて、街が閑散とし、不安や停滞感が広がります。
つまり、人の多すぎる都会は疲れ、無人の街は落ち着かない。
体も同じで、陽(活動)が過ぎても、陰(静けさ)が過ぎても、バランスを崩すのです。
2. 虚実は「交通と人の流れ」
虚実は、その都市にどれだけ動力と流れがあるかを表します。
| 区分 | 都市の交通 | 身体の状態 |
|---|---|---|
| 虚 | 人も車も少なく、経済活動が縮小。街全体がスローモード。 | エネルギー不足、冷え、倦怠、声が小さい。 |
| 実(過剰) | 車が多すぎて、信号も渋滞も制御不能。 | 熱、興奮、炎症、怒り、のぼせ。 |
| 実(停滞) | 事故や渋滞で道路が詰まり、物流が滞る。 | 冷え、むくみ、腹満、重だるさ。 |
3. 陰陽 × 虚実の4つの都市タイプ
| 証 | 都市のイメージ | 流れの方向 | 身体の例 |
|---|---|---|---|
| 陽実証 | 都心ラッシュ・暴走車だらけ | 外向き・過剰発散 | 発熱、炎症、のぼせ、頭痛 |
| 陽虚証 | 信号半分停止・閑散とした冬の街 | 内向き・活動不足 | 冷え、倦怠、代謝低下 |
| 陰実証 | 大渋滞・物流停滞の街 | 下方停滞・滞留 | 浮腫、腹満、重だるさ |
| 陰虚証 | 水不足・乾燥都市・インフラ崩壊 | 内熱・乾燥 | 乾燥、ほてり、不眠、焦燥 |
4. 体の交通整備としての治療
治療の目的は「交通の最適化」です。
3. 陰陽 × 虚実の4つの都市タイプ(リアル版)
陽実証 ― 「真夏の都心、ヒートアイランドの街」
街は人と車で溢れ、クラクションと怒号が絶えない。
気温は上がり続け、誰もがイライラしている。
それでも街は止まらない。発展という名の熱が、都市を焼いている。
→ 身体では:のぼせ、炎症、発熱、怒りっぽさ、交感神経過緊張。
→ 治療の方向:冷ます・鎮める。曲池・太衝・合谷などで「熱の排気」。
陽虚証 ― 「冬の地方都市、灯りがまばらな夜」
雪がしんしんと降る。街灯の明かりは少なく、暖房の燃料もギリギリ。
人々は早めに家にこもり、店のシャッターが下りる時間も早い。
街は静かだが、どこか活気がない。
→ 身体では:冷え、疲労、代謝低下、低体温。
→ 治療の方向:温める・活力を与える。足三里・関元・気海などで「火を灯す」。
陰実証 ― 「梅雨の郊外、湿気と渋滞の街」
空気が重く、洗濯物は乾かない。
道路は慢性的に混雑し、物流センターでは荷物が滞っている。
人々の動きも重く、どこか覇気がない。
→ 身体では:むくみ、腹満、だるさ、便秘、湿気で悪化する体調。
→ 治療の方向:流す・巡らせる。陰陵泉・中脘・脾兪などで「渋滞解消」。
陰虚証 ― 「砂漠化した新興都市、熱風だけが吹く」
勢いよく発展した街。だが、水源が枯渇し、緑は失われた。
舗装された道路は熱を吸い、夜になっても温度が下がらない。
人々は焦燥感を抱え、エアコンの風の中で眠れない。
→ 身体では:ほてり、乾燥、不眠、焦り、動悸。
→ 治療の方向:潤す・鎮める。三陰交・太渓・腎兪で「水を取り戻す」。
5. 臨床での使い方
都市モデルで体を考えると、治療方針がシンプルに整理できます。
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陽実証:渋滞ではなく「暴走」。→ブレーキをかける(清熱・鎮静)
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陰実証:渋滞そのもの。→道路を広げて流す(利湿・巡らせる)
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陽虚証:燃料不足。→温めて補う(温陽・補気)
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陰虚証:インフラ枯渇。→水を補いまわす(滋陰・養血)
6. まとめ
陰陽は「都市の構造」、虚実は「交通の流れ」。
両者のバランスが取れて初めて、街(体)は健康に機能します。
快適と感じる状態は個人差があるかもしれませんが、陰陽虚実を状態とベクトルに分けるときに、都市に例えてみるのは分かりやすい考え方ではないでしょうか。
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陽が過剰なら、熱暴走する。
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陰が過剰なら、沈む。
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虚は動力不足。
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実は流れが悪く詰まりすぎ。
この都市モデルで捉えると、抽象的だった陰陽・虚実がぐっと現実的になります。
東洋医学は、「流れと方向を調整する医療」です。
