医師と鍼灸師の連携について、埼玉医大東洋医学科鍼灸部門客員教授 山口 智先生にインタビューさせていただきました。
埼玉医大では、病院内での鍼灸や、関連病院での鍼灸(急性期から慢性疾患まで)幅広く臨床に鍼灸を活用しています。
HARI×MED(ハリメド)は、医師と鍼灸師の連携で患者さんにより良い未来を形作ることを目指し、それが鍼灸のファンを増やし、受療率の向上につながり、町の鍼灸院にも巡り巡って還元され好循環になると考えています。
山口先生のインタビューでも、「ハリメドの取り組みが進むと、鍼灸受療率は間違いなく上がる」と仰っていただき、とても勇気づけられました。
1. オープニング
高杉&松浦:本日はお時間いただきありがとうございます。ハリメドの企画として、鍼灸の医療連携や院内導入の実際について、山口先生に伺いたいと思います。よろしくお願いします。
山口:埼玉医科大学の山口です。よろしくお願いします。
Q.日本医療における鍼灸の立ち位置と将来像
高杉:日本の医療の中で、鍼灸は今どんな立ち位置にあって、今後どうなっていくと思われますか?
山口:現状、受療率は高くありません(全国調査で約5%という話もあります)。
つまり社会にも医療界にも、鍼灸専門施設が十分認識されていない。
山口:ただ、歴史が長く、多くの疾患や症状に効果が期待できる治療法です。啓発が遅れているだけで、伸ばすべき治療です。
そして今、医療は患者中心・満足度重視の時代に入っています。そこに鍼灸が役立つ余地は大きい。
山口:鍼灸が得意なのは、まず痛み。
それに加えて、麻痺、検査異常が出にくい機能性・自律神経系の不調。
医師と鍼灸師が連携することで、患者さんにとって満足度の高い医療が提供できるようになります。
予防医療と研究の将来性:現代医学で“見える化”していく
松浦:予防医療の文脈でも可能性がある、というお話がありました。
山口:医療費が高い中で、予防医療が重視されてきています。鍼灸もそこで役割を持ちうる。
そのためにも、大規模・多施設の共同研究を進めていく必要があります。国の研究資源に採択していただきながら進めています。
山口:また、現代医学の技術が進んで、以前は“見えなかったもの”が見えるようになっています。脳機能(fMRI)など、自律神経機能(HRV)などを、最新手法で検証できる。
「効いたけど気のせいでは?」と言われがちなものを、説得力ある形で示せる時代です。エビデンスも蓄積しつつある。
不調という観点一つとっても、昔は見えないものを見るところがあったと思いますが、現代医学の新しい機械を使えば使うほど、機能的なものを解明できてきている。例えば、functionalMRIで鍼をしている間のリアルな変化を見ることもできるのですが、正常な状態の方の反応と、病気や症状を持っている方の反応が違うんです。病気や病状がある人で、鍼の間のfMRIの反応が異なる。例えば私がライフワークにしている頭痛だと、視床や視床下部や弁蓋部や帯状回に特異的に反応が見られます。活性化しています。
うつ病はfMRI中の鍼での反応が、左背外側の前頭前野や帯状回に血流が分布しますが、健常者では一過性の変化にとどまるという、同じ治療ポイントに鍼をしても、背景の病気で顕著な反応差がでます。
鍼灸が広がる鍵は「医療連携」
高杉:鍼灸が医療の中で活きるために、いちばん重要なことは何でしょう。
山口:現状、受療率が5%程度という話もあり、社会・医療界・医学界で鍼灸専門施設が十分認識されていないのが現状です。
山口:ただ、鍼灸は長い歴史があり、効果が期待できる疾患・症状も多い。啓発が遅れているだけで、良い治療法なのは間違いありません。だからこそ、正しく啓発して伸ばしていく必要がある。その鍵が医療連携です。
山口:論文に書いたことがありますが、病鍼連携:病院(hospital)と鍼灸専門の治療施設の連携、診鍼連携:診療所(クリニック)と鍼灸専門の治療施設の連携で、鍼灸側は重篤疾患が疑われる、または西洋医学的治療が優先されると判断したら、病院/診療所へ診療依頼を書いて紹介する。医療機関側:治療選択肢が乏しい・症状緩和が課題の患者などを、鍼灸専門施設へ依頼する、という連携です。
山口:繰り返しになりますが、医療連携が一番大事です。そして、現在の医療は患者中心・満足度重視の時代に変化しつつあり、また超高齢化で多様化している。鍼灸が得意な痛み、麻痺、器質的異常がはっきりしない機能性の不調、自律神経系の不定愁訴において、医師と鍼灸師が連携すれば患者満足度の高い医療に繋がっていくと思います。
Q.医師教育:医学部〜卒後、そして「医師向け鍼灸体験講座」
松浦:医師側が鍼灸に触れる機会が少ない、という話があります。この課題に先生が取り組まれていることを教えて下さい。
山口:大きくは卒前(医学部)と卒後です。まず卒前教育ですが、全国の医学部でも東洋医学・鍼灸教育が十分入っているところは一部で、入っていないところも多い。漢方は、富山から千葉にいった寺澤先生の尽力もあり、コアカリキュラムに入っている。その流れに乗って、鍼灸も多少なりともやっている。私が2019年に全国82の医学部に調査したところ、4割の医学部で教える機会が出始めている。できれば卒前教育全てに鍼灸を入れたい、というのが私の夢です。
山口:また、医学部教育(コアカリキュラム)における東洋医学教育の文脈では、教科書に鍼灸を入れる動きが出てきたため、私はそこで鍼灸の章をかなりの分量(20ページ程度)書いたりもしています。

山口:卒後教育としては、例えば私の関連している医学学会で、医師のための鍼灸体験講座を10数年前から続けています。私は頭痛治療がライフワークですから、日本頭痛学会や日本神経治療学会などで実施していますが大変反響があります。よく、鍼灸師サイドは「医者は鍼灸に理解がない」といいますが、実はそうではない。
山口:医師も鍼灸に関心はある。ただ「鍼灸治療は実際何をしているのか」「何が“本当の鍼灸治療”なのか」が分からない。そこを明確にするための場を学会で作ると、よくわかった、となる。ただ埼玉医大までは患者さんを送れないので、地元だとどこがよいかと聞かれる。
山口:そこで私が副会長をしている全日本鍼灸学会が取り組んでいるのは、認定制度です。
医師と連携するには、一定の教育と認定が必要になります。
山口:私が考えているのは、いわば「二階建て」です。
1階:鍼灸師としての基礎認定(共通の土台)、地域において診療所や病院と連携できる鍼灸師
・現代医学的な高度の知識(による連携やレッドフラッグ(見逃すと危険な病態)の把握)
・東洋医学の知識を有する
2階:専門領域(例:頭痛、末梢性顔面神経麻痺、がん、など)
各専門領域の医学会とも連携しながら、制度設計していきたいという方向です。
山口:まずは現在ガイドラインに鍼灸が肯定的と考えられている疾患が現時点で21個ほどありますが、例えば頭痛や末梢性顔面神経麻痺や癌性疼痛のような疾患を、それらの専門の医学学会の先生と協議しながら制度を作り始めています。
埼玉医大で鍼灸と医療連携が立ち上がった背景と歩み(歴史/立ち上げ)
Q. 埼玉医大で、最初に「病院で鍼灸をやろう」と思ったきっかけは?
高杉:埼玉医大で最初に鍼灸を病院でやろうと思ったきっかけは何だったんですか?
山口:埼玉医科大学ができて50年ちょっとになります。初代の病院長が、東大内科で教授を歴任した大島良雄先生でした。若くして岡山大学医学部の教授、次に信州大学医学部の教授を務められ、その後東京大学医学部教授、同大学医学部付属病院病院長を務められておられた先生です。大島先生はアレルギー・リウマチでも有名な先生でしたが、以前から東洋医学に造詣が深く、統合医療や補完代替療法ともいうべきか、先駆的に温泉医学や、物理療法などにも造詣があったんですね。
昭和30年から40年ごろ、東京教育大学(現筑波大学)では鍼灸の基礎研究と臨床研究をする施設があり、それをみた大島先生は、「もっと科学的にやったほうが良い」とのことで、東京大学に呼び、私の恩師である芹澤勝助先生が、大島先生のもとで日本の鍼灸師として初めて医学博士を取った。その後、東京教育大学の教員が大島先生の元で学位を取る流れができました。
大島先生が東京大学を退官後、埼玉医大を作り、1984年に第二内科(循環器・呼吸器・腎臓・リウマチ)に東洋医学(漢方・鍼灸)を入れてくれた。その時に私が招聘されました。そこからのスタートです。
Q. 当時の鍼灸教育の環境はどうだった?
山口:当時は高等教育機関はなく、専門学校や視覚障害者の学校などが中心でした。
その中で、東京教育大学(現在の筑波大学)に、鍼灸の教員養成課程があって、そこに基礎研究と臨床研究をする施設があり、先人がいろいろ研究していました。
山口:大島先生はそれを見て、もっと科学的にやるべきだと考えた。
そこで、東大に呼んで研究を始めた、という流れがあります。
Q. 立ち上げ当初は、院内の反応はどうだった?
山口:最初は外来を始めて、鍼灸と漢方の専門外来として進めました。
当時、大学内で興味を持っている先生は1〜2割程度でしたね。
患者さんも「大学病院に東洋医学があるなら行ってみよう」と、自己判断で来る方が多かった。
Q. そこからどうやって「紹介が回る仕組み」になっていった?
山口:医療連携と研究を進めていきました。特に大事なことが、紹介状の返書です。紹介患者さんを丁寧に診て、紹介状を丁寧に返す。必要であれば2回でも3回でも経過を返す。
それが蓄積して、当初抵抗のあった診療科も徐々に理解者になり、研究や共同の話に繋がっていきました。
徐々に大学内でも紹介が増え、県内の活動を通じて他院からも患者さんが増えていった、という経過です。
Q. 連携が回り始める上で、決定的に重要だったポイントは?
山口:一番大切なことは、紹介いただいた患者さんには、丁寧に返書することです。
現代医学的に、「こういう病態で、鍼灸の適応はこう」「鍼灸治療はこういう形で評価して進める」という説明で返す。
山口:鍼灸師がやりがちで、一番怖いのは、東洋医学的な観点だけで書いてしまうことです。医師は意味が分からない。これはNGです。
西洋医学との接点を作って、一つ一つ整理して書くと、医師側も納得しやすい。そうすると「じゃあまた回してみようか」となっていきます。
Q.その“文書・カルテ”の問題は、教育課題でもある?
松浦:鍼灸師の紹介状・報告書など、医療の基本は学校で教えきれていないですよね。
山口:そこは大きな課題です。
高杉:私も昔、鍼灸師さんとやり取りする中で、紹介状や施術報告書のアドバイスを求められる機会がありました。
どうしても東洋医学的所見が多かったり、文章が雑多になってしまったりする。医師から見るとわかりにくい。そこに西洋医学的な病態―たとえば免疫抑制下の注意点、皮膚トラブルへの配慮―などを入れて整理すると、連携が強くなる実感がありました。
山口:まさに。紹介患者さんを丁寧に診て、丁寧に返書する。地道ですが、信頼が積み上がっていきます。
松浦:医師が求める紹介状・報告書には型があって、そこに沿って入力できれば誰でもできる、という型ができると、連携の効率が良いですよね。私もそういう型を作っています。
Q.大学病院内での鍼灸:電子カルテと連携の実装
高杉:大学病院の鍼灸部門では、医師のカルテや検査結果は見られるんですか?
山口:検査結果は見られます。
ただし画像検査などのオーダーは鍼灸側では難しいので、同じフロアの医師と連携して依頼する形になります。
高杉:上手い医師の記載を参考にできる環境は、鍼灸側の学習にもなりそうですね。
山口:そうです。電子カルテで学ぶとスキルアップしますし、情報の宝庫です。
Q.連携の構築に、うまくいかなかったこと/相性の良い診療科
松浦:振り返って「遠回りだった」「最初うまくいかなかったが回ってきた」という経験はありますか?
山口:医療連携は、当初は整形外科など抵抗が強いこともありました。
でも、返書を丁寧に書く、経過も含めて繰り返し情報を返す、そういう積み上げで理解者が増えていき、研究も一緒にやれるようになってきます。
松浦:相性が良い科、難しい科、苦戦した科はありますか?
山口:私は神経領域(頭痛など)をやってきたので、神経内科とは相性が良い。それに加えて、神経内科の先生は柔軟な先生が多く、初期から連携が取りやすかったですね。顔面神経麻痺は耳鼻科とも関わります。
一方、当初難しかったのは透析など。安全性の整理やデータの不足もあり、時間がかかりました。
透析患者への鍼灸:注意点とコツ
高杉:個人的に興味があるところで深堀りさせていただければと存じます。透析患者さんの倦怠感や便秘など、臨床上の困りごとは多いです。透析患者の鍼灸で注意点はありますか?
山口:まず可能なら灸も含めて考えますが、糖尿病性の末梢神経障害があると熱感に気づきにくいので、安全性に配慮が必要です。お灸は避けたほうがいいかもしれない。温覚の低下や皮膚修復の問題もある。温灸くらいに留めたほうが安全かもしれない。
また、透析日にやるか非透析日にやるかは議論がありますが、私たちは両方可能という立場です。ただし最初は非透析日から始めて、慣れたら透析日に行う、という運用が現実的だと考えています。
糖尿病背景の方は反応が出にくいこともあり、より丁寧な評価が必要です。神経障害があると求心性の刺激が入りにくい、神経性の伝達がしづらいことが背景かと思います。
脳卒中後の痙縮:電気刺激の考え方
高杉:私はリハビリの観点から、外来移行後に痙縮が強くなって困る方が多いと感じています。鍼灸でのアプローチはどう考えますか?
山口:脳梗塞でも、麻痺側側から鍼刺激を加えても、脳血流は変化しない。求心性の入力の問題だと考えます。
痙縮はチャンピオン症例のようなものはありますが、実際の多くは地道な治療が大事な難治性病態ですね。ただ、鍼灸でできることはきちんとあります。
痙縮の場合、屈筋の緊張亢進状態なのですが、屈筋にダイレクトにアプローチするのではなく、拮抗筋にアプローチする方法を採用しています。相反神経支配でいうと、二頭筋の痙縮は三頭筋に刺激をする。
痙縮は通電をした方がよい。ただ、痛みの通電(低頻度)とは周波数の考え方が異なります。高頻度、30Hz以上にすると、ずーっと強縮してくる、その後拮抗筋が緩みます。神奈川県総合リハビリテーション病院の丹澤章八先生という先生が研究していましたが、
例えば三頭筋にある手五里、手三里に2か所とり、60Hz以上で痙性抑制します。すると二頭筋が緩みます。
足は内反している方などは、前脛骨筋にある足三里に高頻度の刺激をするなどや、外反させる筋である長腓骨筋にある陽陵泉に高頻度の通電をして下腿三頭筋を緩めるなどのアプローチがあります。
拮抗筋側に刺激を入れて、筋緊張のバランスを取る発想です。海外では痙縮を起こしている筋に実施するアプローチもありますが、我々の施設は今は拮抗筋からのアプローチを中心にしています。
また、2025年の脳卒中診療ガイドラインでは、中枢性疼痛や肩手症候群(CRPS)は鍼が良いという記載がありますし、脳卒中後のうつ症状にも鍼灸のガイドラインでの推奨度が上がっています。


2. 高杉先生の背景と「同一建物内での併設モデル」
高杉:こちらの状況も共有させていただき、地域の鍼灸院にもどのように影響するか先生の知見をお伺いしたいです。私の場合、整形外科医の叔父が病院で、“鍼”をやっていた背景があります。地域では「痛いけど効いた」という声があって、一定の需要がありました。
山口:なるほど。お伺いすると、今でいうとドライニードリングですね。
高杉:はい。私自身はリウマチ膠原病科・腎臓内科・リハビリの専門医を持っていますが、ガイドラインに鍼灸が載ってきたり、臨床上“可能性がありそうだ”と思う場面も増えたのですが、医師が独学で“薬のように”勉強してすぐ自信を持って実践できるものでもなくて。
山口:そこが大事なポイントですね。鍼灸は手技なので、知識だけでは埋まらない部分がどうしてもあります。
高杉:そこで、2022年頃から鍼灸師さんと一緒に、同じ場所で鍼灸を提供する形にしました。保健所に相談しながら。同じ場所で鍼灸院を開院できています。
山口:いい設計ですね。保健所の手続きや書類の面も、その形なら整理できることが多いです。
ハリメドやクリニック併設鍼灸院は、鍼灸の受療率向上につながるのか?
高杉:医療機関併設鍼灸院や医師が鍼灸を実施すると、その後に、地域の鍼灸院の受療率が伸びるのではと仮説を立てています。このあたり、埼玉医大での実際も含めて山口先生としてはどう思われますか?
山口:医療機関で鍼灸を受けると、その地域の鍼灸受療率は絶対に増えます。間違いなく増えます。
医療機関で鍼灸が回ると、地域の鍼灸院にも還元できます。例えば当院だと入院中は介入できても、退院後・外来移行で距離が離れるため介入が難しくなる。そういった時に町の鍼灸院で受けていただくこともありますし、地域で鍼灸を選択肢に選ぶ人の母数が増えること自体も影響します。最初の一歩が増える。受けた人が鍼灸を継続する。自分が良くなってくると、知人に言う(口コミが出てくる)。
高杉:ハリメドの取り組みは、医療機関と鍼灸の連携を草の根レベルで広めて、鍼灸の連携を強化していきたいなと思っています。
山口:それはすごく良いと思います。
トップダウンも草の根も両方大事で、結局は地道に踏み上げていくのが強い。応援します。

医療機関で鍼灸を実施する機会が増えると、鍼灸受療率は絶対に増える。
地域の鍼灸院に行く患者さんも間違いなく増える。
力強く語ってくれました。
最後に
高杉:今日は、医療連携の核心が「共通言語(文書)」「教育」「認定」「研究」と、かなり具体的に整理できました。ありがとうございました。
山口:こちらこそ。今後も一緒に進めていければと思います。ありがとうございました。


