公孫(こうそん)は足の太陰脾経の第4穴で、脾経の絡穴(らくけつ)にあたります。絡穴として脾経と表裏関係にある胃経を連絡するだけでなく、八脈交会穴の一つとして衝脈を通じるため、消化器症状と婦人科症状の双方に幅広く応用される極めて重要な経穴です。内関(PC6)との組み合わせは「四総穴」の中でも最も著名な対穴であり、胃痛・腹脹・嘔吐・月経不順・心胸痛などに用いられます。
この記事では、公孫の正確な位置・解剖学的構造・取穴法・刺鍼パラメータ・適応症状とそのメカニズム・セルフケア方法・鍼灸師向けの臨床情報・科学的エビデンスまでを網羅的に解説します。
※本記事の内容は教育・情報提供を目的としており、特定の症状に対する治療効果を保証するものではありません。実際の施術は必ず有資格者のもとで行ってください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 穴名(読み) | 公孫(こうそん) |
| 英語名 | Gongsun |
| 所属経絡 | 足の太陰脾経(21穴中 第4穴) |
| WHOコード | SP4 |
| 穴性 | 健脾和胃・理気止痛・調衝止帯・寛胸降逆 |
| 主治 | 胃痛・腹脹・嘔吐・泄瀉・月経不順・心胸痛・不安・足内側痛 |
正確な位置と解剖学的構造

公孫は足の内側、第1中足骨底部の前下縁、赤白肉際に位置します。第1中足骨の内側を足首方向になぞっていくと、骨体から骨底部へ移行する部分に陥凹が触れ、その赤白肉際上が取穴点です。WHO/WPROの標準経穴部位(2006年改訂版)では「On the medial side of the foot, in the depression distal and inferior to the base of the first metatarsal bone, at the junction of the red and white skin」と記載されています。
| 層 | 構造 |
|---|---|
| 皮膚 | 足内側の赤白肉際。足底側は厚い角質層、足背側は薄い皮膚。内側足底皮神経が分布 |
| 皮下組織 | 足底側にやや厚い脂肪組織。内側足底動脈・静脈の浅枝が走行 |
| 筋・腰 | 母趾外転筋の起始部付近。深層に長腓骨筋腰(足底面を横走)が位置 |
| 血管 | 内側足底動脈、内側足背動脈(前脛骨動脈の枝) |
| 神経 | 内側足底神経(脛骨神経由来、L5-S1支配)、伏在神経の枝(L4支配) |
| 深部構造 | 第1中足骨底部の骨膜。内側楔状骨との関節面近傍 |
公孫は第1中足骨の骨体から骨底部への移行部に位置し、太白(SP3・MTP関節後方)よりもさらに近位(足首寄り)にあります。この部位は母趾外転筋の起始部と長腓骨筋腰の走行部が交差する地点であり、比較的深い刺鍼が可能な領域です。絡穴として脾経から胃経への絡脈が分岐する部位とされ、八脈交会穴として衝脈と通じることから、腹部・胸部の広範な症状に対する治療根拠が解剖学的にも支持されます。
公孫は脾経の絡穴として脾胃の表裏関係を調整し、八脈交会穴として衝脈を通じて胸腹部の気機を広く調節します。「絡穴は表裏経の病を治す」という原則と「八脈交会穴は奇経八脈の病を治す」という原則の双方を体現する経穴であり、単なる脾経の経穴を超えた広い治療範囲を持ちます。
見つけ方(取穴法)
足の内側面に手を当て、母趾の付け根(MTP関節)から足首方向に向かって第1中足骨の内側縁を骨に沿ってなぞります。
第1中足骨をなぞっていくと、骨体が細くなった後に骨底部の膨らみに移行します。この骨底部の前下縁(趾先寄りの下方)に陥凹が触れます。
骨底部前下縁の陥凹を、足底と足背の皮膚色の境目(赤白肉際)上で確認します。この交点が公孫です。
親指で陥凹部を押して圧痛を確認します。消化器症状や月経症状がありを褚似陥凹を取るべき取穴の確認に有用です。
公孫は太白(SP3)のさらに近位に位置しますが、両者の間は約1寸(約2cm)程度離れています。太白がMTP関節直後なのに対し、公孫は第1中足骨体を過ぎた骨底部にある点を区別してください。扁平足の患者では足のアーチが低下しているため、第1中足骨底部の陥凹が浅くなることがあります。その場合は骨の触知を優先し、骨底部の前縁を正確に同定してください。
公孫は八脈交会穴として臨床での使用頻度が極めて高い経穴です。取穴の際は第1中足骨の骨体と骨底部の移行部を正確に触知することが最も重要です。骨縁に沿って指を滑らせ、骨の太さが変わるポイントを捉える練習を繰り返してください。
刺鍼・施術法
| パラメータ | 推奨値 |
|---|---|
| 刺入方向 | 直刺 |
| 標準刺入深度 | 0.5〜0.8寸(約10〜15mm) |
| 最大刺入深度 | 1.0寸(約20mm) |
| 手技 | 虚証には補法、実証には瀉法。理気止痛には捻転瀉法が有効 |
| 灸法 | 艾炷灸 3〜5壮、または温灸 15〜20分 |
| 通電(パルス) | 足部のため通電は通常行わない。消化器研究では低周波通電を用いた報告あり |
| 留鍼時間 | 20〜30分 |
公孫は比較的安全な経穴ですが、第1中足骨底部の骨膜に達すると鋭い疼痛を生じるため、骨膜感を感じたら直ちに鍼を引き戻してください。内側足底動脈が近傍を走行しており、動脈拍動を触知できる場合は拍動部位を避けて刺入します。八脈交会穴としての効果を最大化するには、内関(PC6)との併用(公孫=先刺、内関=後刺)が古典的な運用法です。
公孫は絡穴として脾胃の気機を調整するだけでなく、八脈交会穴として衝脈を通じて胸腹部の広範な症状に対応します。この二重の特定穴としての性質を最大限に活かすには、治療目的に応じた配穴が鍵となります。消化器症状には中脘(CV12)・足三里(ST36)、婦人科症状には三陰交(SP6)・関元(CV4)との併用が基本です。
公孫の深部には第1中足骨底部の骨膜と内側楔状骨との関節面があります。1.0寸を超える深刺は骨膜損傷や関節面に達する可能性があるため避けてください。内側足底動脈の走行に注意し、拍動を触知した場合は刺入位置を調整します。
効く症状・効果
公孫(SP4)が適応する主な症状
| 症状 | メカニズム | 併用推奨穴 |
|---|---|---|
| 胃痛・胃もたれ | 脾胃の気機を調整し、絡穴として表裏の胃経を同時に治療。衝脈を通じて腹部の気滞を触消 | 中脘(CV12)・内関(PC6)・足三里(ST36) |
| 腹脹・腹満 | 脾の運化を促進し中焦の湿滞を除去。衝脈の気機調整により腹部全体の気の巡りを改善 | 天枢(ST25)・気海(CV6)・足三里(ST36) |
| 嘔吐・悪心 | 衝脈の気逆を降下させ、胃気上逆を抑制。内関との対穴使用で寛胸降逆の効果増強 | 内関(PC6)・中脘(CV12)・合谷(LI4) |
| 月経不順・月経痛 | 衝脈は「血海」を主り、公孫から衝脈を調節して気血の流通を正常化。調衝止帯の要穴 | 三陰交(SP6)・関元(CV4)・血海(SP10) |
| 心胸痛・動悸 | 衝脈は胸中に上行し心に連絡。公孫から衝脈を通じて胸部の気機を疏通。内関との併用で効果最大化 | 内関(PC6)・膻中(CV17)・神門(HT7) |
| 泄瀉(下痢) | 脾の運化機能を強化し水湿の停滞を触消。絡穴として胃経も同時に調整 | 天枢(ST25)・足三里(ST36)・脾兪(BL20) |
『鍼灸甲乙経』:「腹中切痛、厥気上逆、公孫主之」。『標幽賦』:「脾冷胃疼、瀉公孫而立愈」。古典では腹痛・気逆・脾胃冷痛を主治として記載されており、衝脈との関連で胸腹部症状に広く用いられてきた歴史がうかがえます。八脈交会穴としての公孫—内関の対穴は窦漢卿『標幽賦』に端を発し、後世の鍼灸臨床に大きな影響を与えました。
公孫の臨床的な最大の強みは、脾経の絡穴と衝脈の八脈交会穴という二重の地位により、消化器系と婦人科系の双方を一穴でカバーできる点です。内関(PC6)との対穴使用は胸腹部全域の気機調整に卓越した効果を発揮し、鍼灸臨床における最も重要な対穴の一つとされています。
自分でできるセルフケア
方法①:指圧法(胃痛・腹脹・悪心の緩和)
椅子に座るか床に座り、片足を反対側の膝の上に乗せて足の内側にアクセスしやすい姿勢をとります。
母趾の付け根から足の内側に沿って足首方向に指でなぞり、第1中足骨の骨が太くなり始める手前の凹みを見つけます。足底と足背の皮膚色の境目(赤白肉際)上のその凹みが公孫です。
反対側の手の親指で「痛気持ちいい」程度の強さで5秒間押し、3秒休むサイクルを8〜10回繰り返します。胃痛や悪心がある時に行うと即効性が期待できます。内関(PC6・手首内側)の指圧を併用するとさらに効果的です。
左右両方の足に同じ手順で行います。消化器症状の予防には毎食前に行う習慣が効果的です。
方法②:せんねん灸(慢性胃痛・月経不順・冷えの改善)
市販のせんねん灸(レギュラー〜ソフト)を用意します。脾虚による冷えや慢性消化器症状には灸による温補が特に有効です。
第1中足骨底部の前下縁、赤白肉際上の陥凹部にせんねん灸を貼り、着火します。三陰交(SP6)にも同時に施灸すると月経不順への効果が高まります。
3〜5分程度で温熱を感じます。熱すぎる場合はすぐに取り外してください。1日1回、両側に施灸します。
セルフケアはあくまで日常的な健康管理の一環です。胃痛が持続する場合や激しい心胸痛がある場合は、重篤な疾患の可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。月経不順が長期間続く場合も婦人科の受診をお勧めします。
鍼灸師・学生向け
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 五兪穴分類 | (五兪穴には該当しない) |
| 絡穴 | 脾経の絡穴。別絡は胃経に連絡し、脾胃の表裏関係を調整 |
| 八脈交会穴 | 衝脈に通じる。対穴は内関(PC6・陰維脈)。「公孫衝脈胃心胸」 |
| 特定穴としての意義 | 絡穴+八脈交会穴の二重特定穴。消化器・婦人科・心胸部症状に広範な治療域を持つ |
| 要穴処方例① | 胃痛・嘔吐:公孫+内関(PC6)+中脘(CV12)+足三里(ST36)——八脈交会穴の対穴+脾胃同治 |
| 要穴処方例② | 月経不順・月経痛:公孫+三陰交(SP6)+関元(CV4)+血海(SP10)——衝脈調整+調経止痛 |
| 配穴の根拠 | 公孫(衝脈)+内関(陰維脈)の対穴は胃心胸の病を主る。絡穴として脾胃両経を同時に治療。衝脈は「血海」を主り婦人科疾患の根本治療に関与 |
公孫の臨床運用で最も重要なのは、内関(PC6)との八脈交会穴の対穴としての使用法です。「公孫衝脈胃心胸、内関陰維下総同」(『標幽賦』)の歌訣は、公孫が衝脈を通じて胃・心・胸の疾患を主治することを示しています。臨床では公孫を先に刺鍼し、次に内関を刺鍼する順序が伝統的に推奨されます。絡穴としての原絡配穴法では、太白(脾経原穴)+豊隆(胃経絡穴)と対をなし、公孫+衝陽(胃経原穴)の組み合わせも脾胃の表裏治療に使用されます。
公孫は鍼灸臨床において使用頻度の高い経穴の一つであり、八脈交会穴理論・絡穴理論・表裏配穴法を統合的に理解するうえで不可欠の経穴です。特に公孫—内関の対穴運用は鍼灸師にとって必須の臨床技能であり、消化器科・婦人科・循環器科領域の幅広い症状に対応する汎用性を備えています。
科学的エビデンス
機能性ディスペプシアに対する公孫の効果
機能性ディスペプシア(FD)に対する鍼治療研究では、公孫を含む脾経・胃経の経穴が頻用されています。中国を中心とした複数のRCTで、公孫+内関+足三里を主穴とした鍼治療がFD症状スコアと胃排出能を改善したとする報告があります。ただし、公孫単穴の寄与を独立して評価した研究はなく、複合処方としての効果として理解する必要があります。
悪心・嘔吐に対する鍼刺激
内関(PC6)への鍼刺激が術後悪心・嘔吐(PONV)に対して有効であることは高いエビデンスレベルで支持されていますが(Cochrane Review, 2015)、公孫との併用効果を特異的に検証した研究は限定的です。臨床報告レベルでは、公孫—内関の対穴使用が内関単穴よりも制吐効果が高い傾向が示唆されています。
月経痛に対する鍼灸治療
原発性月経困難症に対する鍼灸治療のシステマティックレビューでは、公孫を含む脾経穴と三陰交の併用が疼痛スコアを有意に改善したとする結果が報告されています。衝脈を通じた子宮血流の改善が推定メカニズムとして考察されていますが、メカニズムの詳細な解明は今後の課題です。
公孫を含む経穴処方の消化器症状・婦人科症状への効果については中等度のエビデンスが蓄積されています。ただし、公孫単穴の効果を独立して評価した高品質RCTはほとんどなく、多穴併用処方の一環としての効果です。「使用されている」「報告されている」という記述は臨床での運用実績を示すものであり、標準的な西洋医学的治療の代替を意味するものではありません。
よくある質問
- 公孫の正確な位置はどうやって見つけますか?
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足の内側に沿って母趾の付け根から足首方向に第1中足骨をなぞります。骨が細い部分から太くなり始める手前(骨底部の前下縁)にある凹みを、足底と足背の皮膚色の境目(赤白肉際)上で探します。太白(SP3)よりもさらに足首寄りです。
- 公孫はどんな症状に使用されますか?
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胃痛・腹脹・嘔吐・下痢などの消化器症状に加え、月経不順・月経痛などの婦人科症状、さらに心胸痛・動悸にも使用されます。八脈交会穴として衝脈を通じて胸腹部の広範な症状に対応できる万能穴です。
- 公孫と内関(PC6)はなぜセットで使われるのですか?
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公孫は衝脈、内関は陰維脈に通じる八脈交会穴であり、両者を対穴として使用すると衝脈と陰維脈の協調作用により胃・心・胸の疾患に優れた効果を発揮します。「公孫衝脈胃心胸」という古典の歌訣に基づく配穴法で、鍼灸臨床で最も重要な対穴の一つです。
- 公孫のセルフケアで胃痛に即効性はありますか?
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公孫の指圧は胃痛や悪心に対して比較的早い反応が期待できる経穴です。内関(手首内側・手首横紋から指3本分肘寄り)の指圧を同時に行うと相乗効果でさらに即効性が高まります。ただし、激しい胃痛が続く場合は必ず医療機関を受診してください。
- 公孫への鍼は痛いですか?
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公孫は赤白肉際に位置するため刺入時にやや鋭い感覚がありますが、井穴ほどの痛みはありません。刺入深度は0.5〜0.8寸程度で、得気として足内側から腹部にかけて響く感覚が生じることがあります。セルフケアでは指圧や灸法を選択すれば鍼の痛みを避けられます。
まとめ
公孫(SP4)は足の太陰脾経の第4穴であり、絡穴と八脈交会穴(衝脈)を兼備する極めて重要な経穴です。消化器症状(胃痛・腹脹・嘔吐・泄瀉)と婦人科症状(月経不順・月経痛)の双方に幅広く応用され、内関(PC6)との対穴使用は胸腹部全域の気機調整に卓越した効果を発揮します。
セルフケアでは指圧法が即効性を期待でき、内関との同時指圧で効果が高まります。慢性症状にはせんねん灸の併用が推奨されます。症状が続く場合は必ず専門医を受診し、適切な診断のうえで鍼灸治療を併用してください。
※本記事は鍼灸師・医療従事者の監修のもと作成されています。経穴の位置・刺鍼法は教科書的な標準に基づいていますが、個人の体格や体質によって微調整が必要な場合があります。
