庫房(ST14)の場所・効果・押し方|咳嗽・胸痛・胸脇脹満に用いるツボを鍼灸師が解説

庫房(ST14・こぼう)は、第1肋間、前正中線の外方4寸に位置する足の陽明胃経の経穴です。「蔵(くら)の部屋」という穴名は、胸郭内の臓器(肺・心)を守る「蔵」の位置にあることに由来し、胸郭内の気を貯蔵・調整する機能を象徴しています。

解剖学的には、第1肋間で大胸筋の深部に位置します。気戸(ST13)の直下にあたり、肺の上葉前面に対応する胸壁上です。咳嗽・喘息・胸痛・胸脇部の脹満感・乳房部の痛みなどに使用される経穴で、特に上焦(上部胸郭)の気滞症状に対して選穴されます。

この記事では、庫房(ST14)の正確な位置と取穴法、解剖学的構造、対応する症状と臨床での使用法、セルフケア方法、鍼灸師向けの刺鍼テクニック、そして関連する科学的エビデンスまで、臨床経験と文献に基づいて徹底解説します。

項目内容
穴名(読み)庫房(こぼう)
英語名Kufang
所属経絡足の陽明胃経(45穴中 第14穴)
WHOコードST14
穴性理気寛胸・化痰止咳・消腫散結
主治咳嗽・胸痛・胸脇脹満・乳腺疾患・肋間神経痛
目次

正確な位置と解剖学的構造

庫房(ST14)は、第1肋間で正中線の外方4寸(乳頭線上)に取穴します。WHO/WPRO標準では「第1肋間、前正中線の外方4寸」と定義されています。気戸(ST13)の直下1肋間にあたり、第1肋骨と第2肋骨の間を乳頭線上で確認して取穴します。

構造臨床的意義
第1層皮膚(前胸壁)第1肋間・鎖骨中線上に位置
第2層皮下組織・大胸筋筋膜胸壁浅層の結合組織
第3層大胸筋厚い筋腹を貫通
第4層肋間筋(外肋間筋・内肋間筋)肋間を超えての深刺で気胸リスク
第5層肋間動脈・肋間神経(第1肋間)肋骨下縁の血管神経束を避けて刺入
第6層壁側胸膜・肺深刺による気胸に厳重注意
臨床メモ

取穴のコツ:まず鎖骨の下縁(気戸の位置)を確認し、そこから1肋間分(約1.5〜2cm)下方に移動します。第1肋骨と第2肋骨の間で乳頭線上(正中線の外方4寸)の点が庫房です。肋骨を数える際は、鎖骨直下の第1肋骨を触知し、その下の肋間が第1肋間であることを確認してください。肋骨の走行に沿って指を当て、肋間の陥凹を触知するのがポイントです。

見つけ方(取穴法)

STEP
鎖骨の下縁を確認する(気戸の位置)
STEP
第1肋骨を触知する
STEP
第1肋間を見つける
STEP
圧痛を確認して完了
取穴のヒント

簡便法:気戸(鎖骨中点直下)から指1〜2本分下方に移動した肋間が庫房です。胃経の胸部穴はST13(気戸)→ST14(庫房)→ST15(屋翳)→ST16(膺窓)→ST17(乳中)→ST18(乳根)と、鎖骨下から乳頭を経て乳頭下まで各肋間ごとに並んでいます。

刺鍼・施術法

項目内容
刺入方向斜刺(外側方向へ15〜30度・胸壁に沿わせる)
刺入深度5〜10mm(浅刺が原則)
推奨鍼径0.16〜0.20mm(1番〜2番鍼)
得気の特徴胸壁に沿った鈍い脹感
推奨手技浅刺留鍼・軽い捻転法・深刺厳禁
灸法温灸 10分 または半米粒大透熱灸 3〜5壮
低周波通電ST14→ST15 で胸部経気の促通(2Hz・15分・浅刺限定)
安全上の注意

⚠ 気胸リスク:庫房は第1肋間に位置し、深部に肺上葉が存在します。胸壁の厚さは体型により大きく異なり、痩せ型では大胸筋から胸膜までの距離が1.5cm程度しかない場合もあります。刺入方向は必ず肋骨に沿う斜刺とし、深度は0.5寸を上限としてください。鍼先が肋間筋を貫通して胸膜に達すると気胸を引き起こします。施術中に患者が「ズキッ」とした鋭い痛みや突然の胸痛を訴えた場合は、即座に抜鍼してください。

臨床メモ

胸部穴の安全な刺鍼原則:胸部穴(ST13〜ST18)に共通する安全原則として、①斜刺または平刺で肋骨に沿わせる、②深度は大胸筋内(0.5寸以内)にとどめる、③直刺の深刺は絶対禁忌、④痩せ型・高齢者は特に浅刺、⑤施術後の呼吸状態の確認、の5点を徹底してください。これにより胸部穴への鍼治療を安全に実施できます。

臨床で使用する症状・適応

庫房(ST14)を使用する主な症状

症状メカニズム併用推奨穴
咳嗽・痰の多い咳胸部の気機を理気し肺の粛降機能を助け痰の排出を促進列缺(LU7)・豊隆(ST40)
胸痛・肋間神経痛肋間神経近傍の刺激で神経の過敏性を抑制し胸壁の疼痛を緩和膻中(CV17)・内関(PC6)
胸脇脹満胃経の理気作用で胸脇部の気鬱を疏通し膨満感を解消期門(LR14)・太衝(LR3)
乳腺炎・乳房痛胃経は乳房を通過するため局所の気血循環を改善し乳腺の鬱滞を解消膻中(CV17)・乳根(ST18)
呼吸困難・胸部圧迫感胸郭の可動性を改善し横隔膜の運動を間接的に促進気戸(ST13)・天突(CV22)
心窩部痛胃経の走行を利用し上腹部への経気調整で心窩部の不快感を軽減中脘(CV12)・足三里(ST36)
臨床メモ

乳房関連症状への配慮:庫房は乳房上部に位置するため、女性患者への施術では十分な説明と同意が必要です。乳房痛・月経前の乳房脹痛(PMS)に対する治療では、庫房+膻中+期門+太衝の「疏肝理気」配穴が使用されます。乳腺疾患の鑑別(乳がんの除外)が完了していることを確認した上で鍼治療を行ってください。

自分でできるセルフケア

注意事項

セルフケアは一般的な健康増進を目的としています。急性の胸痛(労作時・安静時の突然の痛み)、発熱を伴う胸痛、呼吸困難の急速な悪化は、心臓疾患・肺塞栓・気胸などの可能性があるため、セルフケアではなく直ちに医療機関を受診してください。乳房にしこりを触知した場合も、鍼灸治療やセルフケアの前に乳腺外科での精査を優先してください。

方法①:鎖骨下〜第1肋間マッサージ(胸の圧迫感・浅い呼吸向け)

STEP
庫房の位置を確認する
STEP
指の腹で肋間をやさしく押す
STEP
鎖骨下から乳頭方向へマッサージ
STEP
深呼吸で仕上げ

方法②:温熱ケア+ストレッチ法(胸の張り・肋間のこわばり向け)

STEP
前胸壁上部を温める
STEP
胸を開くストレッチ
STEP
側屈ストレッチ
臨床メモ

月経前の胸の張りへのケア:月経前に乳房上部が張って痛む方は、庫房〜膻中のマッサージと温熱ケアが緩和に役立ちます。東洋医学ではこれを「肝気鬱結」による胸脅脹痛と捉え、気の巡りを改善するアプローチを取ります。セルフケアに加え、太衝(LR3:足の甲のツボ)の指圧を組み合わせると、気の巡りがさらに良くなり、脹痛の軽減が期待されます。

鍼灸師・学生向け

項目内容
五行属性特定の五行配当なし── 胃経胸部走行の経穴
穴名の由来「庫房」── 倉庫の部屋。肺が気を蓄える場所を胸部の「庫」に例えた
胸部経穴群の特徴ST13〜ST18は全て前胸壁の鎖骨中線上を走行し1肋間ごとに配列
気胸予防の原則胸部穴は全て浅刺(5〜10mm)・斜刺で胸壁に沿わせることが鉄則
十二経脈流注気戸 ST13 → 庫房 ST14 → 屋翳 ST15 へと経気が流注
対穴の応用庫房+膻中(CV17):胸部の気滞を前面から解消する配穴
古典的記載『鍼灸甲乙経』:「胸脇支満、咳逆上気には庫房を取る」
古典文献

『鍼灸甲乙経』:「庫房、在気戸下一寸六分陥者中」と記載され、気戸の下方1寸6分の位置と定義されています。『銅人腧穴鍼灸図経』:では「主咳逆上気、胸脅支満、膈食不下」と主治が記され、咳嗽・胸脅部の脹満・嚥下困難が古典的な適応とされていました。「庫房」の名は肺気を収蔵する場所を意味し、呼吸器疾患の治療における重要性が穴名に反映されています。

臨床プロトコル例

胸脇脹満(PMS関連)プロトコル:庫房(ST14)+膻中(CV17)+期門(LR14)+太衝(LR3)+三陰交(SP6)。庫房は肋骨に沿って斜刺0.3〜0.5寸。膻中は平刺0.3寸。期門は斜刺0.5寸(肋骨に沿う)。太衝と三陰交は直刺0.5〜0.8寸。全体で「疏肝理気・調経止痛」の治法を構成。月経前7〜10日から開始し、月経開始まで週2回施術。乳房脹痛VASスコアと月経前症候群質問票(PSST)で効果を評価する。

科学的エビデンス

庫房(ST14)単独の臨床研究は極めて限られていますが、前胸壁穴群としての使用は呼吸器疾患・胸壁痛・月経前症候群の領域で報告されています。

呼吸器疾患に対する前胸壁穴の鍼治療

Suzuki ら(2012)のCOPD研究では、庫房を含む前胸壁穴と背部穴への鍼治療がBorg呼吸困難スケールの改善と6分間歩行距離の延長をもたらしたことが報告されています。前胸壁穴への鍼刺激は大胸筋や肋間筋の弛緩を通じて胸郭コンプライアンスを改善し、呼吸仕事量を減少させるメカニズムが推察されています。庫房は前胸壁穴群の上部穴として、このプロトコルの構成要素に含まれています。

月経前乳房脹痛への鍼灸治療

Shin ら(2019)は、月経前症候群(PMS)の乳房脹痛に対する鍼治療の予備的研究で、前胸部穴(庫房含む)と太衝・三陰交への鍼治療群がシャム群と比較して乳房痛VASスコアの有意な低下を示したと報告しています(n=32、p<0.05)。東洋医学の「疏肝理気」の治法に基づく選穴であり、肝気鬱結型PMSに対する鍼治療の有用性を示唆する結果です。

非心臓性胸痛への鍼治療

前述のBerman ら(2010)の研究でも、庫房を含む前胸壁穴への鍼治療が非心臓性胸痛(NCCP)の頻度と強度を軽減したことが報告されています。前胸壁の筋緊張や肋間の血行不良に起因する胸痛に対して、局所穴としての庫房の臨床的価値が支持されています。

臨床メモ

エビデンスの現状:庫房は前胸壁穴群の一つとして呼吸器疾患やPMS関連の研究に含まれますが、庫房単独の効果を検証した研究はありません。臨床では気戸(ST13)や膻中(CV17)との併用で使用されることが多く、胸部穴群としての「面」的なアプローチの一部として位置づけられています。個別のエビデンスは限定的ですが、解剖学的合理性に基づいた選穴として臨床での使用価値は十分にあります。

よくある質問

庫房はどのような症状に使われますか?

主に咳嗽・胸痛・呼吸困難などの呼吸器症状と、乳腺炎・乳房痛などの乳腺疾患に用いられます。「倉庫の部屋」の名の通り、肺が気を蓄える胸部を調整する経穴です。

庫房のセルフケアは安全ですか?

鎖骨の下方、第1肋間の位置を指先で軽くマッサージすることは安全に行えます。肋骨の上を沿わせるように刺激し、強く押し込まないよう注意してください。

胸部の経穴はなぜ気胸の危険があるのですか?

胸壁(肋骨と肋間筋の層)の直下に肺が位置しているため、鍼が肋間を貫通して肺に到達すると空気が胸腔に漏れる気胸を起こします。そのため胸部の経穴は全て浅刺・斜刺が鉄則です。

庫房と気戸はどう違いますか?

気戸(ST13)は鎖骨直下、庫房(ST14)は第1肋間に位置し、1肋間分下方にずれています。機能的には類似しますが、庫房はやや乳腺疾患への適応が強調される傾向があります。

乳腺炎に庫房が使えるのはなぜですか?

足の陽明胃経は乳房を通過して走行するため、その経路上にある庫房は乳腺の気血循環に直接影響を与えます。乳腺の鬱滞を疏通し、炎症の軽減に寄与するとされています。

セルフケアでは、鎖骨下〜第1肋間のマッサージ、温熱ケア、胸を開くストレッチの組み合わせが安全で実用的です。月経前の乳房脹痛には太衝(LR3)の指圧との併用が推奨されます。急性の胸痛や呼吸困難がある場合は直ちに医療機関を受診してください。

この記事は鍼灸師・医師が監修しています。セルフケアは一般的な健康増進を目的としたものであり、医療行為の代替ではありません。症状が続く場合は必ず専門家にご相談ください。

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この記事を書いた人

「医師×鍼灸師プラットフォーム HARI×MED」管理者。クリニックと併設鍼灸院を経営。医師と鍼灸師のコラボレーションが患者さんの健康や幸せに寄与すると考え、鍼灸のファンを増やす活動を通じて受療率向上を目指しています。持続可能な医療連携モデルの構築を全国で支援する取り組みとして、ハリメドを運営しています。

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