承泣(ST1)の場所・効果・押し方|目の疲れ・ドライアイに効く眼科の要穴を医師が解説

承泣(しょうきゅう)は、足陽明胃経(ST)の第1穴で、目の真下に位置する眼科領域の代表的なツボです。「承泣」の名は「涙を承(う)ける」という意味で、涙道の出口付近に取穴することに由来します。

近視・眼精疲労・ドライアイ・結膜炎・白内障・顔面神経麻痺など、眼疾患全般に最も頻用される経穴のひとつ。とりわけ中国では小児近視の進行抑制に承泣を主穴とする鍼治療の研究が多数報告されています。

目の周囲は非常にデリケートなため、施灸は禁忌であり、刺鍼にも高度な技術が必要です。セルフケアでは温罨法(ホットアイマスク)が安全かつ有効な方法です。

項目内容
経絡足陽明胃経(ST)第1穴
読み / 拼音しょうきゅう / Chéngqì
五行土行
交会穴陽蹻脈・任脈との交会穴
WHO標準部位顔面部、瞳孔の直下、眼窩下縁と眼球の間
施灸禁忌
目次

承泣の正確な位置と解剖学的構造

承泣は眼窩下縁(がんかかえん)のちょうど中央、瞳孔の直下に位置します。正面を向いた状態で瞳孔から垂直に下ろした線と、眼窩下縁の骨が交わる点です。

解剖学的には、眼輪筋の深層にあたり、すぐ上方に眼球、後方に眼窩脂肪体が存在する非常にデリケートな部位です。眼窩下神経(三叉神経第2枝V2)が支配し、眼窩下動・静脈が走行しているため、出血や内出血(いわゆる「パンダ目」)のリスクに常に注意が必要です。

解剖構造詳細
皮膚・皮下組織眼窩下縁直上、皮膚は薄く色素沈着しやすい
筋肉眼輪筋(眼裂部)、下眼瞼挙筋
神経眼窩下神経(三叉神経V2枝)、顔面神経頬骨枝
血管眼窩下動脈・静脈、眼角動脈分枝
深部構造眼窩脂肪体、下直筋、眼球下壁
臨床メモ:なぜ「パンダ目」になるのか

眼窩周囲は血管が豊富で組織が疎なため、わずかな出血でも皮下に広がり目立つ内出血(眼窩周囲血腫)になります。特に抗凝固薬を服用中の方や高齢者では起こりやすいため、抜鍼後の圧迫止血を最低2分間確実に行うことが重要です。当院では施術後に冷却パッドを当てることでリスクを軽減しています。

承泣の見つけ方(取穴法)

承泣の取穴は眼球のすぐ近くで行うため、正確さと安全性の両立が求められます。以下の手順で確実に見つけましょう。

STEP
患者さんの姿勢を整える

仰臥位(あおむけ)で、顔を天井に向けます。枕は低めに設定し、顔面が水平になるようにします。

STEP
正面を注視してもらう

患者さんに天井の一点を真っ直ぐ見つめてもらいます。視線が正面を向いた状態で瞳孔の位置を確認します。眼球が動くと正確な位置がずれるため、施術中も視線の固定を保ってもらいます。

STEP
眼窩下縁の骨を触知する

瞳孔の直下に指を置き、眼窩下縁の骨の上端(骨と眼球の境目)を触知します。骨の縁に沿って指を滑らせると、中央付近にわずかな陥凹を感じるポイントがあります。

STEP
骨際の陥凹部に取穴する

眼窩下縁の上端、瞳孔直下の陥凹部が承泣です。指先で軽く押すと鈍い圧痛があり、涙が出そうな感覚(承泣の由来)を感じることがあります。

取穴のコツ

臨床では、利き手の示指で眼球を軽く上方に押し上げながら骨際を探ると、眼窩下縁と眼球の間隙が広がり取穴しやすくなります。ST2(四白)は承泣のさらに下方(眼窩下孔の陥凹部)なので混同しないよう注意してください。承泣は「骨際ギリギリの上端」、四白は「骨の下方の孔の陥凹部」と覚えるとよいでしょう。

刺鍼・施術法

承泣は眼球に極めて近い部位であり、全経穴のなかでも最も慎重な刺鍼技術が求められるツボのひとつです。施灸は禁忌とされており、刺鍼のみで施術を行います。

項目内容
刺入方向直刺(眼窩下縁に沿って後方へ)または斜刺
刺入深度0.5〜1.0寸(約15〜25mm)
鍼の太さ0番〜1番鍼(0.14〜0.16mm)の細鍼を推奨
施灸禁忌(眼窩周囲の火傷・眼球損傷リスク)
得気局所の脹感・痠感。涙がにじむ感覚を訴える患者が多い
⚠️ 安全上の注意(必読)

① 刺入前:眼球の位置を確認し、示指で眼球を軽く上方へ押し上げて眼窩下縁との間隙を確保してから刺入します。コンタクトレンズは必ず事前に外してもらいます。

② 刺入中:鍼尖は常に眼窩下壁(骨面)に沿わせ、絶対に上方(眼球方向)へ向けないこと。捻鍼は最小限にとどめ、雀啄は行いません。

③ 抜鍼後:乾綿で最低2分間の圧迫止血を行います。眼窩内出血の兆候(急激な眼球突出・視力低下・眼痛増悪)がないか確認してから終了します。

臨床メモ:承泣の刺鍼で失敗しないために

当院での経験上、承泣の内出血(パンダ目)の多くは、抜鍼時の圧迫不足が原因です。とくに抗凝固薬(ワーファリン、DOAC等)や抗血小板薬(アスピリン等)を服用中の患者では、圧迫時間を5分以上に延長し、施術後に冷却パッドを10分間当てるプロトコルで内出血の発生率を大幅に低減できています。また、初回施術では浅刺(0.3寸程度)にとどめ、患者の反応を確認してから次回以降に深度を調整する段階的アプローチが安全です。

承泣が効く症状・効果

承泣は「目のツボの王様」と呼ばれるほど、眼科領域で幅広く使われます。陽蹻脈・任脈との交会穴でもあり、目の局所だけでなく全身の気血の流れにも影響を与えます。

主な適応症

症状効果のメカニズム組み合わせツボ
眼精疲労・目の疲れ眼輪筋の緊張緩和、眼窩周囲の血行促進。VDT症候群(パソコン疲れ)の代表穴BL1 睛明、GB20 風池、太陽穴(奇穴)
近視・仮性近視毛様体筋の調節機能改善、眼軸長の伸長抑制。小児近視のRCTで有効性が報告BL1 睛明、BL2 攅竹、GB37 光明
ドライアイ涙腺への副交感神経刺激により涙液分泌を促進。Schirmer試験値の改善が複数のRCTで確認BL2 攅竹、TE23 糸竹空、LI4 合谷
流涙症(なみだ目)涙道(鼻涙管)の通過性改善。承泣の位置が涙小管の出口に近い解剖学的理由によるBL1 睛明、LI20 迎香
顔面神経麻痺(ベル麻痺)眼輪筋(顔面神経頬骨枝支配)の神経再教育・筋緊張回復。閉眼不全(兔眼)の改善ST4 地倉、ST6 頬車、LI4 合谷、ST7 下関
結膜炎・ものもらい局所の消炎・充血緩和。風熱邪の清熱作用LI4 合谷、LI11 曲池、TE5 外関
臨床メモ:VDT症候群(パソコン疲れ目)に承泣が効く理由

長時間のPC作業やスマートフォン使用による眼精疲労は、毛様体筋の持続的収縮と瞬目回数の減少(通常1分間15〜20回→PC作業中は5回前後)が主因です。承泣への鍼刺激は、三叉神経第2枝(眼窩下神経)を介した体性-自律神経反射により、毛様体筋の弛緩と涙液分泌の亢進を同時に促します。実際の臨床では、承泣+BL1(睛明)+GB20(風池)の3穴で「目がスッキリ開く」と訴える患者が非常に多く、当院のVDT症候群プロトコルの中核をなしています。

自分でできるセルフケア

承泣は眼球のすぐ近くにあるため、指圧によるセルフケアは上級者以外にはおすすめしません。そのかわり、承泣周辺の血行を安全に改善できる方法をご紹介します。

⚠️ セルフケアの注意点

承泣は眼球に隣接しているため、強い指圧や爪を立てた刺激は絶対に避けてください。コンタクトレンズ装着中のケアも禁止です。目に痛み・充血・視力の変化がある場合は、セルフケアではなく眼科を受診してください。以下の方法はいずれも目を閉じた状態で行います。

方法①:ホットアイマスク(最もおすすめ)

STEP
ホットタオルまたは市販のホットアイマスクを準備する

濡らしたタオルを電子レンジで40秒〜1分温めるか、使い捨てのホットアイマスクを使用します。温度は40〜42℃が適温です(熱すぎると火傷のリスクがあります)。

STEP
目を閉じてアイマスクを乗せる

仰向けに横になるか、椅子にもたれかかった姿勢で、閉じた両目の上にそっと乗せます。承泣(目の下の骨際)を含む目の周囲全体がじんわり温まるのを感じてください。

STEP
10〜15分間リラックスする

そのまま10〜15分間温め続けます。温度が下がってきたら交換します。この間はスマホを見ずに目を休ませましょう。

頻度:1日1〜2回、朝の起床時または就寝前が効果的です。VDT作業が長い日は昼休みにも追加するとよいでしょう。

方法②:ツボ押し(慎重に行える方のみ)

STEP
手を清潔にし、爪を短く切る

目の周囲に触れるため、手洗いを徹底します。爪が長いと目を傷つけるリスクがあります。

STEP
人差し指の腹を承泣に当てる

目を閉じ、人差し指の腹(指先ではなく少し手前の柔らかい部分)を眼窩下縁の骨際に軽く当てます。骨を感じながら、そのすぐ上を触れる程度に。

STEP
ごく軽い圧で5秒保持 → 5秒休み × 5回

ペンを持つ程度のごく軽い圧で承泣を5秒間押し、5秒間休みます。これを5回繰り返します。じんわりとした温かさや涙が出そうな感覚が得気のサインです。痛みを感じたらすぐに中止してください。

臨床メモ:ホットアイマスクの科学的根拠

温罨法は、マイボーム腺(まぶたの油脂を分泌する腺)からの脂質分泌を促進し、涙液の蒸発を防ぐ油層を安定させます。ドライアイの国際的ガイドライン(TFOS DEWS II, 2017)でも、温罨法は軽症〜中等症のドライアイに対する第一選択のセルフケアとして推奨されています。承泣周辺を温めることで、局所の血流改善と涙液層の安定化が同時に得られる一石二鳥の方法です。

鍼灸師・学生向け:承泣の臨床ポイント

※ここからは主に専門家向けの内容です。一般の方は読み飛ばしていただいて構いません。

臨床項目詳細
取穴体位仰臥位。頭部を安定させ、視線を天井に固定
使用鍼0番鍼(0.14mm×30mm)を推奨。細い鍼ほど出血リスクが低い
刺入手技左手示指で眼球を上方へ軽く圧排し、眼窩下壁に沿って緩徐に直刺。捻鍼は最小限、雀啄は禁忌
刺入深度0.5〜1.0寸。初回は0.3寸の浅刺から開始し段階的に深度を増す
得気局所の脹感・痠感。眼球奥への放散感。流涙を訴える場合あり
置鍼時間10〜20分。電気鍼は2Hz低頻度で慎重に使用
抜鍼後乾綿で最低2分間圧迫止血。抗凝固薬服用者は5分以上。冷却パッド推奨
禁忌施灸禁忌。眼球突出(バセドウ病等)・重度の出血傾向・眼窩内腫瘍は相対禁忌
古典文献における承泣

『鍼灸甲乙経』(259年頃、皇甫謐):「承泣、目下七分、直瞳子、禁不可灸」と記載され、古くから施灸禁忌穴であったことがわかります。『鍼灸大成』(1601年、楊継洲)では「治目赤腫痛、目不明、涙出多眵」とあり、眼疾患全般への主穴として用いられてきました。交会穴として陽蹻脈と任脈が胃経と合流する点は、承泣が単なる局所穴にとどまらず全身の陰陽バランス調整に関与することを示唆しています。

経穴の鑑別:承泣 vs 四白 vs 睛明

承泣(ST1):眼窩下縁と眼球の間。瞳孔直下の骨際上端。眼疾患全般の主穴。施灸禁忌。

四白(ST2):承泣の下方約1寸。眼窩下孔の陥凹部。三叉神経痛・顔面痛に特効。承泣より安全に刺鍼可能。

睛明(BL1):内眼角の内上方、鼻根との間の陥凹部。涙嚢に最も近く、流涙・鼻涙管閉塞に第一選択。承泣と併用頻度が高い。

科学的エビデンス

承泣を含む眼周囲穴への鍼治療に関するエビデンスは、とくに近視とドライアイの分野で蓄積が進んでいます。以下に代表的な知見を紹介します。

近視の進行抑制に関する研究

中国を中心に、承泣・睛明など眼周囲穴への鍼治療が小児の近視進行を抑制する可能性を示す臨床研究が複数報告されています。2015年にPublished in Evidence-Based Complementary and Alternative Medicineのシステマティックレビューでは、鍼治療群が偽鍼治療群と比較して近距離視力の有意な改善を認め、眼軸長の伸長速度も低下傾向が見られました。ただし、研究の質にばらつきがあり、より大規模なRCTが必要とされています。

ドライアイに対する鍼治療の効果

2012年のAcupuncture in Medicine誌に掲載されたRCTでは、承泣を含む眼周囲穴への鍼治療が、涙液分泌量(Schirmer試験値)を有意に増加させ、眼表面疾患指数(OSDI)スコアを改善したと報告されています。また、2019年のCochrane Database of Systematic Reviewsに登録されたプロトコルでは、ドライアイに対する鍼治療のシステマティックレビューが進行中であり、今後さらなるエビデンスの集積が期待されています。

顔面神経麻痺のリハビリテーション

ベル麻痺(突発性顔面神経麻痺)に対する鍼治療のシステマティックレビュー(Acupuncture in Medicine, 2015)では、承泣・ST4(地倉)・ST6(頬車)などの顔面部穴を用いた鍼治療が、ステロイド単独治療と比較して回復率を有意に向上させたと報告されています。とくに発症後2週間〜3か月の亜急性期に鍼治療を併用することで、閉眼不全や口角下垂の改善が促進される可能性が示唆されています。

臨床メモ:エビデンスの読み方について

上記の研究の多くは中国で実施されたものであり、二重盲検が困難な鍼治療研究固有のバイアスに留意が必要です。現時点では「有望な結果が示されているが、高品質のエビデンスの蓄積はまだ十分とは言えない」というのが公正な評価です。当院では、これらのエビデンスを踏まえつつ、患者一人ひとりの症状と経過に基づいた施術を行っています。

よくある質問

承泣への鍼は痛いですか?

眼窩下縁のデリケートな部位のため、刺入時にツーンとした圧迫感や鈍い脹感を感じる方が多いです。ただし、熟練した鍼灸師が適切な太さの鍼(0番鍼・0.14mm)で施術すれば、「思ったより痛くなかった」という声が大半です。痛みが強い場合や不安がある場合は、遠慮なく術者に伝えてください。刺入深度の調整や、より細い鍼への変更で対応可能です。

承泣は自分で押しても大丈夫ですか?

承泣は眼球に非常に近いため、セルフケアとしての強い指圧はおすすめしません。自分で行う場合は、清潔な指の腹で「ペンを持つ程度」のごく軽い圧で骨際に触れるようにしてください。より安全で効果的な方法は、ホットアイマスクで目の周囲全体を温める温罨法です。40〜42℃で10〜15分間温めるだけでも、眼精疲労の改善に有効です。

目の疲れに鍼治療は何回通えば効果が出ますか?

一時的な眼精疲労であれば、1〜3回の施術で「目が軽くなった」「視界がクリアになった」と実感される方が多いです。慢性的なドライアイや近視の進行抑制を目的とする場合は、週1〜2回の施術を1〜3か月継続することが一般的です。改善のペースには個人差がありますので、初回施術後の反応を見ながら施術計画をご提案します。

コンタクトレンズをしたまま鍼治療は受けられますか?

承泣への施術時は、必ずコンタクトレンズを外していただく必要があります。理由は2つあります。① 施術中に眼球を上方へ圧排する操作があり、レンズがずれる・破損するリスクがあること。② 抜鍼後に圧迫止血のため目を閉じて綿花で圧迫するため、レンズが装着されていると角膜を傷つける恐れがあることです。保存液とケースをご持参ください。

承泣と睛明(BL1)はどう違うのですか?

承泣(ST1)は瞳孔直下の眼窩下縁に位置し、胃経の第1穴です。近視・眼精疲労・ドライアイなど眼疾患全般に最も幅広く使用されます。一方、睛明(BL1)は内眼角(目頭)のやや上方にある膀胱経の第1穴で、涙嚢に最も近いため、とくに流涙症・鼻涙管閉塞に第一選択とされます。臨床では両穴を併用することが多く、承泣+睛明で「目の表裏を同時にケアする」組み合わせとして定番です。

まとめ

承泣(ST1)は足陽明胃経の起始穴であり、眼科領域の代表的な治療穴です。近視・眼精疲労・ドライアイ・顔面神経麻痺など幅広い適応症をもちますが、眼球に極めて近い解剖学的位置から施灸禁忌・慎重な刺鍼が不可欠です。セルフケアではホットアイマスクによる温罨法が最も安全かつ有効な方法です。

著者:ハリメド編集部|現役鍼灸師・医師監修
参照:WHO/WPRO Standard Acupuncture Point Locations (2008)、『鍼灸甲乙経』、TFOS DEWS II Report (2017)
本記事は情報提供を目的としており、医療行為の代替ではありません。症状が続く場合は医療機関を受診してください。

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この記事を書いた人

「医師×鍼灸師プラットフォーム HARI×MED」管理者。クリニックと併設鍼灸院を経営。医師と鍼灸師のコラボレーションが患者さんの健康や幸せに寄与すると考え、鍼灸のファンを増やす活動を通じて受療率向上を目指しています。持続可能な医療連携モデルの構築を全国で支援する取り組みとして、ハリメドを運営しています。

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